分譲マンションに防火管理者は必要?報酬が出るのは本当?気になる点を徹底解説
建物の「防火管理者」をご存じですか?
防火管理者はその名の通り、建物の防火に関する管理者のこと。
建物の火災を未然に防止し、万が一火災が発生した場合でも被害を最小限にとどめる対策などを行う責任者です。
多数の人が出入りする建物では防火管理者を選任しなければならないと、消防法に定められています。
「多数の人が出入りする建物」と聞くと大型商業施設などが最初に思い浮かびますが、防火管理者は一般的な分譲マンションにおいても選任が必要なのです。
このコラムでは防火管理者の役割や分譲マンションなどにおける選任状況、なり手不足の問題などについて説明します。
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INDEX
そもそも防火管理者とは?
防火管理者とは、防火管理上必要な業務を計画的に行う責任者のことです。
多くの人が利用する施設において、火災などの被害を防止するために防火管理者は設定されています。
消防法では、一定規模の防火対象物の管理権原者は、有資格者の中から防火管理者を選任して、防火管理業務を行わせなければならないとされています。
「一定規模の防火対象物」「管理権原者」という馴染みのない言葉がありましたね。
それぞれの意味は下記の通りです。
- 一定規模の防火対象物:建築物や一部の工作物など、火災予防の対象となるもの
- 管理権原者:防火対象物の所有者や借受人、事業所の代表者など、管理行為を当然に行うべき者。防火管理の最終責任者
防火管理者は分譲マンションに必要
防火管理者を選任しなければならない、主な建物は以下の通りです。
- 事務所、共同住宅など特定の者が出入りする建物で、収容人員が50人以上
- 店舗・飲食店・病院など不特定多数の者が出入りする用途がある建物で、収容人数が30人以上
- 老人ホームなど自力で避難することが難しい方が入所する社会福祉施設などの建物で、収容人数が10人以上
マンションなどの共同住宅は、収容人員が50人以上の場合に対象となります。
収容人数とは
収容人員は、マンションの戸数ではなく、そのマンションに住んでいる人の数を指します。
しかし、各部屋に何人住んでいるのかを、管理組合や管理会社が正確に把握することは困難です。
そのため、ワンルームや1LDKの部屋は1人、2LDKは2人、というように大まかな計算で数字を算出しています。
このなんとなくの計算で、50人以上となった場合に収容人数を50人以上とみなしたり、総戸数が30戸以上なら対象とみなしたりしているのが実態のようです。
感覚的には10戸以下なら対象外、40戸以上なら対象といった感じでしょうか。
10戸~40戸のマンションは、ワンルームが中心のマンションなら対象外の可能性が高く、ファミリータイプの部屋が多いマンションは対象となる可能性が高いといったイメージです。
もしご心配なら各部屋に「何人住んでいますか?」とアンケートを取って確認することをお勧めします。
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防火管理者がいないと罰則がある?
防火管理者を配置しなければならないと記載されている「消防法」は法律なので、当然守らなければ罰則があります。
防火管理者に関する罰則は以下の通りです。
違反条文 | 違反概要 | 罰則規定 | 罰則内容 |
---|---|---|---|
第 8 条第 2 項 | 防火管理者の選任・解任の届出を怠った場合 | 第 44 条第 8 号 | 30 万円以下の罰金または拘留 |
第 8 条第 3 項 | 防火管理者選任命令に従わなかった場合 | ・第 42 条第 1 項 ・第 45 条第 3 号 | ・6 月以下の懲役 ・50 万円以下の罰金 ・両罰:本条の罰金 |
1段目の例は防火管理者の選任が必要なのに、選任していない場合などが当てはまります。
2段目は防火管理者の責任者選任をしておらず、消防署から出された改善命令に従わなかった場合ですね。
ちなみに両罰(両罰規程)というのは、法人に所属する役員や従業員が、法人の業務に関連して違法な行為をした場合、個人だけでなく、法人も併せて罰せられる規定のこと。
つまり「防火管理者を選んでないので、早く選んでください」という改善命令に従わなかった場合、両罰規則により理事長だけでなく管理組合全体に処罰がくだるというわけです。
防火管理者は誰でもいいわけではない!その選任方法とは
防火管理者は防火管理に関する知識や技能を持ち、防火管理上必要な業務を適正に遂行することができる管理的、または監督的な地位の者でなければなりません。
「防火管理者を選べ」と言われたからといって、適当に選ぶのはNG。
資格、またはそれに該当する知識を持った人しか防火管理者にはなれないのです。
防火管理者には資格が必要
防火管理者としての資格は消防機関または、指定講習機関が実施する防火管理講習の課程を修了した者に与えられます。
消防法では「防火管理者として必要な学識経験を有する者」も防火管理者として選任可能としていますが、一般的には消防署が行っている防火管理者講習を受講し、防火管理者の資格を取得するケースが多いです。
防火管理者の資格には甲種と乙種の2種類があります。
甲種防火管理者の場合、講習は2日間。乙種の場合は1日で終了します。
費用は数千円程度です。
防火管理者の資格取得には、一般的な資格試験のように「テストで●点以上でないとダメ」という基準はありません。
きちんと講習を受けさえすれば、資格は取得できるものです。
マンションの大きさによって必要な資格が異なる
ちなみにマンションの場合、収容人数が50人以上で、延床面積が500㎡以上の場合は、甲種防火管理者の選任が必要です。
延床面積が500㎡未満の場合は乙種防火管理者でも可となっています。
収容人数が50人以上のマンションの多くは延床面積が500㎡を超えるでしょうから、防火管理者の選任が必要なマンションの場合は、たいてい甲種防火管理者の有資格者が必要ということになります。
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資格取得のハードルは日数確保
資格を取得するにあたって何が一番のハードルになるかと聞かれたら、それはおそらく講習受講のための日数確保でしょう。
甲種防火管理者の場合、2日間連続して講習を受ける必要があります。
最も受講者数が多いと思われる東京都だと土日の講習予定もあるため、平日に休みが取れない方でも土日に受講することが可能です。
しかし「せっかくの休日が2日とも講習で潰れてしまうのは嫌!」という方も多いのではないでしょうか。
このように、日数の確保が一番悩ましいところと言えます。
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マンションの防火管理者の主な仕事とは?
防火管理の責務については消防法第8条に記載されていますが、主に次のような役割があります。
- 消防計画を作成・届出をする
- 消防訓練を実施・届出する
- 消防設備を点検・整備する
- 避難経路を適正に維持・管理する
消防計画を作成・届出をする
消防計画とは、火災や地震などの災害時に「初期消火」「避難誘導」「消防通報」をする人をあらかじめ決めておき、その内容を計画書として記録したマニュアルのようなものです。
防火管理者は定期的に消防計画を確認し災害時、迷いなくすぐ行動できるように備えておく必要があります。
また、消防計画は消防署などへ届出ることが義務付けられています。
消防訓練を実施・届出する
消防訓練は年間2回実施し、その都度消防署に通知しなければなりません。
原則、訓練をする前に消防署に通知を行います。
訓練はおおまかに分けて「通報訓練」「消火訓練」「避難訓練」「応急救護」「総合訓練」の5つ。
どのような訓練を行うかは消防計画に記載されています。
そのため、訓練のたびに「出火場所や火災や地震などの原因」などのシナリオを変更して実施するとより効果的でしょう。
消防設備を点検・整備する
消防設備の点検整備は「消防設備士」または「消防設備士点検資格」を取得した者が行わなければなりません。
そのため、防火管理者は資格者が在籍する消防設備業者に委託することが一般的です。
消防設備は「消防法17条3の3」に基づいて、資格者などが点検し消防署に報告することが義務付けられています。
設備に関して不備があった場合には防火管理者が整備しなければなりません。
避難経路を適正に維持・管理する
以前、雑居ビルで発生した火災によって40人以上が亡くなるという事故がありました。
この火災の際、避難経路に可燃物が大量に置かれていたことで被害が拡大したことが分かっています。
こういった事例もあり、避難経路に置いている物品は撤去しなければなりません。
避難経路にある物品の撤去は、防火管理者の役割と位置づけられています。
共用廊下や非常階段などで避難時の邪魔になりそうなものを発見した際は、速やかに撤去しましょう。
また、避難通路には防火設備が設置されていることがあります。
たとえば防火扉や防火シャッターなどです。
これらの設備は火災時に火や煙をその場で食い止める役割があり、扉前やシャッター下に物品があると完全に閉鎖できず、防火区画を形成することができません。
防火設備周りの物品についても十分に注意が必要です。
防火設備は煙感知器に連動して作動するタイプがあるので、装置がしっかり作動することも確認しておきましょう。
これらも、消防設備点検の際に合わせて点検することが一般的です。
防火管理者に報酬は発生する?
マンションによっては防火管理者に報酬を設定しているところもあるようです。
マンションの防火管理者は管理組合の役員とは異なり、講習を受けることによる資格取得が不可欠です。
また、防火管理者は「住人の安全を確保する」という重大な役割があります。
上記のような特殊性ゆえに、防火管理者は役員の選任とは違い、輪番で決めるべきものではないことがわかりますね。
こうした事情もあって、防火管理者のなり手が見つからない場合には資格取得のための受講料のほか、防火管理者手当として年間数万円程度の報酬を設定するマンション管理組合も多いようです。
非常に重要な役割をもったマンションの防火管理者ですから、報酬を支払うことは必要だと言えます。
なお、防火管理者に報酬を支払う場合には、揉め事などを回避するためにも報酬手当の額を定めた「防火管理者に関する細則」を作成した方が良いでしょう。
防火管理者を外部委託するのもあり
マンションによっては住民の方が誰も防火管理者を引き受けてくれない「なり手不足」が問題に上がるケースもあります。
防火管理者は、防火対策に何らかの不備があり実際の火災時に問題が起こった際、責任を問われるかもしれない立場です。
「そんな責任は負いたくない!」と思う方が多いのは、想像に難くないですよね。
そういったマンションの場合は、防火管理者を外部委託することも一つの手です。
管理会社や、大手のマンション管理士事務所などが引き受けてくれるケースがあるため、外部委託についても検討してみてはいかがでしょうか。
ちなみに、弊社が提携しているマンション管理士事務所ですと月額1万円程度(※)で引き受けてくれるそうです。
(※マンションの規模や事務所や店舗の有無によって金額が変わります)
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まとめ
マンションは消防法に定める「共同住宅」に該当します。
その防火管理体制については、消防法8条による規定に従わなければなりません。
防火管理者の未選任または、防火管理者としての業務を果たしていない状態で火災により死傷者が出た場合には、理事長が責任を追及される可能性も十分考えられます。
それだけでなく、管理組合そのものが処罰の対象となる可能性もあるでしょう。
法律が関係しているため「知らなかった」では済まされません。
まずはご自身のマンションの防火管理者の選任状況を確認しましょう。
「未選任だった」
「管理員さんが専任していたが、すでに辞めている人だった」
このようなことがあれば、速やかに対応しましょう。
その際、新たな防火管理者の選任が難しいようであれば、外部委託も含めて検討することをおすすめします。