長期修繕計画の作成にかかる費用を紹介!エクセルでの管理方法も解説

管理組合にとって長期修繕計画は非常に重要です。

長期修繕計画は月々の修繕積立金の元となるため、精度が低いと大規模修繕工事の際に資金不足に陥ってしまう可能性もあります。

また、適切な時期に適切な修繕工事を行うことは、建物を長持ちさせることにつながります。そういった面でも長期修繕計画の定期的な見直しは必要です。

今回のコラムでは長期修繕計画の作成について解説していきます。

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長期修繕計画とは

長期修繕計画は、一般的に25年から30年程度の期間を対象として、マンションの各箇所に関する鉄部塗装工事・外壁塗装工事・屋上防水工事・給水管工事・排水管工事などの大規模修繕をどの時期に、どの程度の費用で実施するかを計画するものです。

長期修繕計画の作成は、マンションの定期的な点検・修繕を通してマンションの寿命の延長・快適な居住環境の確保、そして区分所有者の資産であるマンションの資産価値を維持することを目的としています。

そのため、長期修繕計画の作成では概算費用や計画の詳細などを明確に記録しておく必要があり、その計画を区分所有者全員が確認できるように保管しておかなくてはなりません。

長期修繕計画を立てなければならない理由

10数年ごとに行われる大規模修繕工事の費用は、おおよそ1世帯あたり100万円〜150万円くらいかかると言われています。
工事のたびに一時金として全戸から徴収する方法はあまり現実的ではないため、毎月少しずつ積み立てておこうというのが修繕積立金です。

では毎月の修繕積立金をいくらに設定すれば良いのでしょうか?

そのもとになるのが長期修繕計画です。
10年後、20年後、30年後にどのような修繕工事が必要で、そのためにはいくらお金がかかるか、それをまかなうために月々の修繕積立金をいくらに設定するかを決めていくわけです。

長期修繕計画がないと、月々の修繕積立金の額も根拠のない設定となってしまうため、いざ工事を行う際に資金が不足してしまうことも考えられます。

また、国土交通省が公開しているマンション標準管理規約では以下のような記載があります。

(業務)
第32条 管理組合は、次の各号に掲げる業務を行う。
三 長期修繕計画の作成又は変更に関する業務及び長期修繕計画書の管理

マンション標準管理規約

長期修繕計画の作成や変更(見直し)は管理組合の行うべき業務として明記されていますのでしっかりと行う必要があります。

長期修繕計画での主な工事箇所と周期

長期修繕計画に盛り込む主な工事項目と周期は以下の通りです。

工事項目内容周期
屋上防水補修・修繕12年〜15年
撤去・新設24年〜30年
床防水修繕12年〜15年
外壁塗装塗装12年〜15年
除去・塗装24年〜30年
躯体コンクリート補修補修12年〜15年
タイル張補修補修12年〜15年
シーリング打替12年〜15年
鉄部塗装塗装5年〜7年
建具点検・調整12年〜15年
取替34年〜38年
屋外鉄骨階段補修12年〜15年
取替34年〜38年
メーターボックス扉取替34年〜38年
メールボックス取替24年〜28年
給水管更生19年〜23年
取替30年〜40年
貯水槽補修12年〜16年
取替26年〜30年
給水ポンプ補修5年〜8年
取替14年〜18年
ガス管取替28年〜32年
空調・換気設備取替13年〜17年
電灯設備取替18年〜22年
インターネット設備取替28年〜32年
インターホン設備取替15年〜20年
屋内消火栓設備取替23年〜27年
自動火災報知設備取替18年〜22年
連結送水管設備取替23年〜27年
エレベーター補修12年〜15年
取替26年〜30年
機械式駐車場補修5年
取替18年〜22年
外構補修・取替24年〜28年

また、工事項目ではありませんが、大規模修繕工事の前に行う建物診断費用や、工事監理費用、長期修繕計画の見直しのための費用などもそれなりの金額になりますので長期修繕計画の中に盛り込んでおくと良いでしょう。

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長期修繕計画を作成する際のガイドラインについて

長期修繕計画は国土交通省が定めたガイドラインに沿って作成するのが良いでしょう。

ガイドラインに従って作成することは義務ではありませんが、日本のマンション全体がこれを目安に作成することで、他のマンションから住人が引っ越してきたとしても長期修繕計画の内容を理解しやすくなるメリットもあるので、可能な限りガイドラインを参考に作成することをおすすめします。

ちなみに、ガイドラインは以下のポイントを意識して作成されています。

  • 管理組合員が長期修繕計画について理解し、比較検討を容易にするため、作成者ごとに異なっていた様式について標準的な様式を策定した。
  • 項目漏れによる修繕積立金の不足を防ぐため、標準的な推定修繕工事項目を示している。
  • 修繕積立金の将来的な引き上げ額の幅を少なくするため、均等積立方式により修繕積立金の額を算出することとしている。
  • 修繕積立金の額の算出方法を統一している。

長期修繕計画に上限期間はない

長期修繕計画は何年後までの分を作成すれば良いのでしょうか?

2022年4月に始まった管理計画認定制度においては、認定を受ける基準の一つとして、長期修繕計画が30年以上、かつ大規模修繕工事が2回含まれているというものが定められています。
つまり、国としては30年以上の計画を立てておくことを推奨していると考えて良いでしょう。

では40年、50年と長ければ長い程良いのでしょうか?
それはそうとは言い切れません。50年の計画を立てておくこと自体は悪いことではないのですが、さすがに50年先までの計画となると精度が低い計画となるおそれがあります。

あまり参考にならない計画になってしまう可能性があるため、やはり30年程度の計画を立て、定期的に見直しをしていくのが良いでしょう。

長期修繕計画は5年ごとに見直しをするのがおすすめ

長期修繕計画は、30年程度の長いスパンで計画を立てます。そうは言っても、思っていたよりも劣化が進んでいるなど、想定外の事態は多々起きてしまうので、その都度計画の見直しは必要です。

急な事態にも柔軟に対応できるように計画の見直しは5年ごとに行うのがおすすめです。5年ごとに行えば、役員の入れ替えがあっても計画の引き継ぎがしやすいメリットがあり、多人数で計画の情報を共有しやすくなります。

また、5年で見直しをおすすめする理由として、工事項目の中には5年周期のものがあることが挙げられます。5年に一度計画の見直しを行っていれば、5年周期の工事を実施した内容を新たに作成した計画に反映させることができます。

一方、まだ状態が良いから数年先までその工事を先延ばしした場合は、その内容を反映させることができます。
つまり常に最新の状態を計画に反映させることができるわけです。

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長期修繕計画の作成方法

長期修繕計画作成の基本的な流れは以下の通りです。

1.検討体制の整備
長期修繕計画の見直しに当たっては、必要に応じて専門委員会を設置するなど、検討を行うために管理組合内の体制を整えることも考えられます。もちろん理事会役員が中心となって検討を進める形でも問題ありません。

2.長期修繕計画の作成業務の依頼
管理組合が、専門家に長期修繕計画の見直しを依頼する際は、標準様式を参考として、長期修繕計画作成業務発注仕様書を作成し、依頼する業務の内容を明確に示すことが必要です。

3.調査・診断の実施
長期修繕計画の見直しに当たっては、事前に専門家による設計図書、修繕履歴などの資料調査、現地調査、必要により区分所有者に対するアンケート調査などの調査・診断を行います。
建物および設備の劣化状況、区分所有者の要望などの現状を把握し、これらに基づいて作成することが必要です。

4.マンションのビジョンの検討
マンションの現状の性能・機能、調査・診断の結果などを踏まえて、計画期間においてどのような生活環境を望むのか、そのために必要とする建物および設備の性能・機能などについて十分に検討することが必要です。

また、現状の耐震性、区分所有者の要望などから、必要に応じて「マンション耐震化マニュアル(国土交通省)」「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル(国土交通省)」などを参考とし、建物および設備の耐震性、断熱性などの性能向上を図る改修工事の実施について検討を行います。

特に、耐震性が不足するマンションは、区分所有者のみならず周辺住民等の生命・身体が脅かされる危険性があることから、昭和56年5月31日以前に建築確認済証が交付(いわゆる旧耐震基準)されたマンションにおいては、耐震診断を行うとともに、その結果により耐震改修の実施について検討することが必要です。なお、耐震改修工事の費用が負担できないなどの理由により、すぐに実施することが困難なときは、補助および融資の活用を検討したり、推定修繕工事項目として設定した上で段階的に改修を進めたりすることも考えられます。

高経年のマンションの場合は、必要に応じて「マンションの建替えか修繕かを判断するためのマニュアル(国土交通省)」などを参考とし、建替えも視野に入れて検討することが望まれます。

また、長期修繕計画の作成を依頼する先としては以下があります。

1.管理会社
マンションのことを熟知しているので何かとスムーズですが、会社によっては修繕工事に関する知見が乏しいところもあるようです。

2.マンション管理士などの外部の専門家
客観的かつ専門的な知見をもとに精度の高い計画が期待できます。

3.マンション管理センター
営利目的の団体ではないため安価に作成してもらえます。

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長期修繕計画の作成費用

1.管理会社に依頼した場合の費用
管理会社への長期修繕計画の見直しは、無償の場合と有償の場合があります。
(無償の場合でも、作成費用が毎月の管理委託費用の中に含まれているケースが多いです)
有償の場合は、約10~50万円程度が相場と言われています。

金額については、事前調査をどこまで行うかによって大きく変わってきます。
建物の劣化状態など、現地調査をほとんどせず、既存の計画を机上だけで行う場合なら安価で済みますが、調査をしっかり行う場合は高額になります。

もちろん、しっかりと調査をした方がより精度の高い計画が作成されることが期待できますが、見直しのたびに調査を行うとその分費用もかかってしまいます。
大規模修繕工事の知識に乏しい管理会社では、不要な工事が盛り込まれたり、修繕箇所が抜けたりする可能性もありますので注意が必要です。

2.外部の専門家に依頼した場合の費用
マンション管理士などの専門家に長期修繕計画の見直しを依頼した場合は、約10〜20万円が相場と言われています。
こちらも管理会社と同様、事前にどこまで調査を行うかによって費用が変わってきます。しっかりとした調査を依頼した場合は、上記に加え+50万円前後の費用がかかると考えておいた方が良いでしょう。
管理会社と比べ専門的な知識が豊富な場合が多く、精度の高い計画が期待できます。

3.マンション管理センターに依頼した場合の費用
マンション管理センターに委託した場合は、1棟あたり21,000円(税込)で作成してくれます。
(金額は、マンション管理センターやマンションみらいネットに登録していない管理組合の場合です)
非常に安価で作成してくれますが、現地調査などは行わないため、精度の高いものは期待できません。

エクセルで管理する時の注意点

一から長期修繕計画を作成する場合は、管理組合だけで作成するのは困難でしょう。

しかし、一度作成されたものを見直す程度なら十分対応できます。その場合、既にある長期修繕計画をエクセルで納品してもらっていれば管理や見直し作業も楽にできます。

工事を実施した場合はその時期を反映させ、先送りしたものは、現時点で行う予定の時期に修正するだけでも十分です。

注意点としては、古い計画は古い計画として残しておき、今回の修正でどのような変更を加えたかの履歴をしっかりと残しておくことです。

言うまでもありませんが、管理組合の役員は輪番で変わっていくことが多いため、このようにした方が、引き継ぎの面からも望ましいでしょう。

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まとめ

今回は長期修繕計画がテーマでした。

管理組合にとって長期修繕計画はとても重要です。

長期修繕計画の見直しをしてこなかったために、大規模修繕工事費用が全然足りないことが発覚し、大幅に修繕積立金の値上げが必要になったという事例をよく耳にします。

一戸建ての所有者と比べ、マンションの所有者は将来の修繕計画に対する意識が薄くなりやすいと言われています。きっと管理会社がちゃんと計画してくれているだろうというイメージがあるのかもしれません。

上記の修繕積立金の大幅な不足の例も、そういった意識が薄い管理組合に多く見受けられます。
管理会社任せにせず、当事者意識を持って対応されることをおすすめします。

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