マンション管理費を滞納されたら訴訟するべき?差し押さえや競売タイミングなどを解説

マンション管理費を滞納されたら訴訟するべき?差し押さえや競売タイミングなどを解説

国土交通省が5年ごとに実施しているマンション総合調査(平成30年度)の結果では「管
理費等の滞納トラブルを抱えている」と回答された方は、全体の約24%でした。

決して少なくはない数のマンションで滞納問題が起きているようですね。

いくら督促しても全然払ってもらえない。
そんな時は訴訟? それとも差し押さえ? 競売?

今回は滞納が長期化・深刻化している場合の対応について解説していきます。

管理費を滞納されるとマンションにどんな影響がある?

滞納が発生すると以下のような問題が生じます。

  1. 維持管理に支障をきたす
  2. 修繕積立金会計に影響をおよぼし、必要な修繕が実施できなくなる
  3. マンションの資産価値が低下する
  4. マンション内のコミュニティ形成に支障をきたす

費用面での問題はもちろん、マンション内における人間関係に亀裂が生じる可能性もあります。
もう少し詳しくみていきましょう。

1. 維持管理に支障をきたす

滞納が長期化または複数住戸で発生すると、必要な作業を発注できなくなる可能性が生じます。

そのため、修繕すべき部分の修繕ができずマンションの劣化が進んでしまうかもしれません。
マンションの老朽化については近年大きな問題として取り上げられています。

マンションの老朽化については、下記の記事で詳しく説明しています。
もしよければご覧ください。

関連記事:老朽化マンション問題とは?あなたのマンションもいずれ迎える老朽化。今のうちにできることとは?

関連記事:マンションの建て替えって実際してるの?住民の負担費用や、マンション寿命などから詳しく解説

2. 修繕積立金会計に影響をおよぼし、必要な修繕が実施できなくなる

管理費会計が赤字に陥った場合、修繕積立金を取り崩して管理費会計に充当する場合があります。

一時しのぎにしかならないため、もちろんお勧めできる対応策ではありません。

しかし、背に腹は代えられないという場合にこの選択をすることでしょう。

この場合、当然ですが将来の修繕計画に影響をおよぼし、必要な修繕が実施できなくなる可能性があります。

3. マンションの資産価値が低下する

マンションを中古で売却する際は、不動産仲介会社に売却の依頼をするのが一般的です。

仲介会社はあらかじめそのマンションの様々な情報を調査し、購入検討者に必要に応じて提供します。

購入検討者のなかには「このマンション全体の滞納金ってどのくらいあるの?」ということを質問される方もいらっしゃいます。
そこで滞納金が多量にあることがわかると、敬遠されてしまうことが考えられます。

その結果、マンションが売りづらくなり、値段を下げざるを得なくなるでしょう。

そうすると、将来的に資産価値が下がるということが発生してしまいます。

また、資産価値には外観なども大きく影響するもの。
先述のようなことがあって適切な修繕ができていなかった場合、マンションの見た目や印象が悪くなってしまいます。

その結果、売りづらくなり資産価値が下がる……というケースも十分考えられます。

関連記事:必要?大規模修繕工事コンサルタントの役割と選び方とは

4. マンション内のコミュニティ形成に支障をきたす

管理費の滞納者であっても、普通にそのマンションで生活している場合もあるでしょう。

「あの人は管理費の支払いをしていないのに、なんで支払っている私と同じマンションに住んでいるの?」と、不満に思う方も一定数出てくる可能性も否定できません。

滞納している人とはなんとなく挨拶を交わさなくなったり、中には滞納している人に向かって「あなたは管理費を払っていないんだから、エレベーターは使わないで」と怒り出したりする人もいらっしゃいます。

そうやってマンション内の雰囲気や住民同士の関係性が悪くなる場合があります。

管理費滞納の背景とは

マンションの管理費等を滞納する人の背景には、いくつかの要因があります。

  • 何らかの理由で仕事を失ってしまい、収入がなくなった
  • 年金で暮らしているため、資金に余裕がない
  • 区分所有者が亡くなったが、相続人が誰だか分からないため督促できない
  • 相続人は判明しているが、管理費などを支払ってくれない

お金があるのに払わないといったような悪意のあるケースというよりは、払いたいけど払えないというケースの方が多いようです。

管理費滞納されないための予防策について

管理費などの滞納理由はさまざまです。

本当にお金がない人、あるけど支払わない悪質な人。
ルーズな人、区分所有者がどこに住んでいるかも分からないケースなど、多様なケースがあります。

本当にお金がない人については滞納させない対策よりも、どうやって回収しようか、という点を主眼に対応を検討すべきでしょう。

しかし、それ以外の人(=お金がある人)についての滞納を発生させない方法は以下の通りです。

  • 徴収方法を見直す
  • 区分所有者名簿を定期的に見直す
  • 滞納者への督促に関する定めを決めておき、それを周知しておく

徴収方法を見直す

滞納された費用の徴収方法は「収納代行会社による口座引き落とし」「銀行指定による口座引き落とし」「振り込み」「持参」などがあります。

この中でおすすめなのは「収納代行会社による口座引き落とし」です。

他の徴収方法と決定的に違うのは「区分所有者の指定する口座から引き落としができる(日本全国ほとんどの金融機関から選択可能)」という点です。

管理費などの引き落し口座がマンション最寄りのA支店のみ、と指定されているマンションも多くあります。

しかし、その口座がその人のメインバンクでない場合、ついお金を入れておくのを忘れ、滞納が発生しやすくなります。

また、最近は金融機関で複数の口座を開設することができないケースも多々みられます。

他支店の口座を持っていたがゆえに、管理組合が指定した口座を作成できないということがたびたび起こります。

そうなると、その方は管理費などを管理組合口座に振り込むしかありません。

収納代行会社による口座引き落としであれば、通常は各区分所有者のメイン口座を指定してくれます。そのため「残高不足により引き落としができない」というケースが発生しづらくなることが期待できるでしょう。

また、万が一引き落としができなかった場合ですが、メインの口座に数万円のお金が入っていないということですから、この方は金銭的に問題を抱えている可能性があるかも、ということが分かります。

つまり管理組合からすると、たった1~2カ月の滞納であっても「もしかしたら」という万が一の長期化を視野に入れた迅速な対応が取りやすくなるのです。

区分所有者名簿を定期的に見直すこと

「区分所有者の居場所が分からない」
「督促状をどこに送って良いか分からない」

というケースがときどきあります。

また「区分所有者が亡くなったが相続人が誰なのかが分からず、誰に管理費などを請求していいのか分からない」というケースも。

こういったことはどのマンションにも起こりうるもの。

このような事態に備え、必要なのが「定期的に区分所有者名簿を整備すること」です。

名簿自体を作成していない管理組合や、作成はしたもののその後の情報更新がされていない、といった管理組合が意外と多く存在するようです。

管理組合運営は何十年にも渡ります。その間に管理費などの金額や徴収方法が変更となる可能性も十分にあります。

その際にスムーズに館外の区分所有者と連絡が取れる状態にしておくことが、滞納を発生させないことにつながるのです。

滞納者への督促に関する定めを決めておき、それを周知しておく

たとえば「滞納○ヶ月で弁護士による内容証明郵便を発送する」「○カ月以上で支払督促」などのような対応基準を定めておき、管理組合内で周知しておきましょう。

滞納が発生した際に「どう対応しましょうか?」と議論する手間も省けますし、迅速な対応が可能になります。
また、このルールを周知することで滞納に対するけん制機能が働くことも期待できます。

管理費を滞納されたらすべきこと

滞納が発生したら速やかに督促を行いましょう。
督促の方法はいくつかあります。滞納の状況によって選択するのが良いでしょう。

督促

督促には、書面、電話、訪問からはじまり、内容証明や支払督促による請求、さらには訴訟まで、滞納状況に応じた対応が考えられます。

詳しくは別のコラムで触れておりますのであわせてお読みください。

関連記事:マンションの管理費を払わない人への対処法や予防策を徹底解説!法的措置に関する注意点も

強制執行手続き

支払督促や勝訴判決を得ても滞納者が滞納管理費を支払わない場合には、強制執行(財産の差し押さえ)を行うことになります。

滞納者の給料を差し押さえたり、銀行の預金や自動車なども差し押さえたりすることが可能です。

強制執行手続きの種類

マンション管理費を滞納されたときの強制執行手続きにはいくつかの種類があります。

相手の区分所有権や敷地権を差し押さえてマンションを競売にかけるのであれば、区分所有法によって特別な手続きが定められているのでそちらに従いましょう。

一方、相手の預貯金や保険などの一般財産を差し押さえるのであれば、一般的な強制執行の手法を用いる必要があります。

管理費の長期滞納者の場合「お金はあるけど払わない」ケースよりも、「お金を持っていないので払いたくても払えない」ケースの方が多いと思われます。
そのため、滞納者が預貯金や保険などの一般財産自体を持っていない可能性が高いため、一般的な強制執行はそもそも意味がないかも知れません。

強制執行の対象になるものにはマンションも含まれる

滞納者のマンションの部屋自体も強制執行の対象です。

給料や銀行預金などで回収ができれば良いのですが「滞納者が仕事をしていない」「銀行預金の残高がない」といったケースも想定されるでしょう。

その場合、滞納者の部屋自体を競売にかけることができます。

区分所有法第7条により、管理費や修繕積立金について先取特権が成立します。
管理費などの滞納があった場合は他の債権者より優先して弁済を受けることができるのです。

ただし「先取特権」は登記された抵当権よりも優先順位が劣ります。

つまり、滞納者の部屋に住宅ローンなどに基づく抵当権が設定されていた場合、競売で落札されても落札金額より住宅ローンの金額のほうが大きければ、滞納金を回収することはできないのです。

このような場合、建物の区分所有などに関する法律(区分所有法)や管理規約により、滞納していた部屋を購入した人(=特定承継人)に滞納金を請求することができます。

管理組合としては滞納者にも新所有者にもどちらにも請求をすることができますが、一般的には新所有者が滞納金を支払ってくれるケースが多いようです。

(先取特権)
第七条 区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても、同様とする。
2 前項の先取特権は、優先権の順位及び効力については、共益費用の先取特権とみなす。
3 民法(明治二十九年法律第八十九号)第三百十九条の規定は、第一項の先取特権に準用する。

区分所有法

(特定承継人の責任)
第八条 前条第一項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。

区分所有法


(承継人に対する債権の行使)
第26条 管理組合が管理費等について有する債権は、区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。

標準管理規約

保全処分とは

一般的な強制執行手続きを行う際は「保全処分」という手続きがあります。

訴訟を起こすと判決までに数か月程度の時間がかかるが一般的です。
その間に債務者が預金をおろしたり保険を解約したりして、財産を隠してしまうケースも考えられます。

そうなると、せっかく判決を得ても差し押さえるべき対象が存在せず、強制執行ができなくなってしまいます。

そういった場合の債権者の権利を守るために保全処分があります。
判決確定前に、仮に相手の資産を差し押さえて動かせなくします。預金や保険などの保全手続きを「仮差押え」といいます。

預金を仮差押えすれば相手は判決が出るまでの間、預金を払い戻したり振り込んだり引き落としたりができなくなります。

保険を仮差押えすれば相手は保険を解約できなくなるので、判決までの間、解約返戻金が守られます。
保全処分によって、訴訟にどれだけかかっても財産隠しをされるおそれがなくなり、安心して裁判を進められます。

とはいえ、先ほども触れた通り、長期滞納者は払いたくても払えないケースが多いと思われます。
その場合、差し押さえる財産自体がないでしょうから保全処分が有効となることはないことになります。

マンションを競売にかけて強制執行する方法

滞納者の預金口座や保険などの資産状況がわからない場合や、滞納者が資産を持っていない場合など、管理組合は滞納者のマンションの部屋そのものを差し押さえて競売にかけることができます。

区分所有法では、以下の2つの方法による区分所有権の競売手続きが定められています。

① 区分所有法7条にもとづく先取特権

1つ目は区分所有法7条にもとづく先取特権です。

先取特権とは、条件によって債権者が優先的に弁済を受けられる権利です。

先取特権を持つ債権者は、他の債権者に優先して権利を主張できます。

区分所有法7条では、管理費用を請求できる債権者に先取特権が認められているので、管理組合は訴訟を起こさなくても滞納者の区分所有権や敷地権を差し押さえられます。
事前に訴訟を起こして判決を勝ち取る必要がないのです。

区分所有法7条による強制執行が失敗に終わるパターン

区分所有法7条による強制執行は失敗に終わるケースも多いようです

主に、滞納者に住宅ローンの残債が残っている場合です。
住宅ローンを組むと、通常はマンションの部屋に抵当権が設定されます。

区分所有法7条によって管理組合には優先的な先取特権が認められますが、抵当権には劣後してしまいます。

つまり競売を行っても、売却価額が残ローンの弁済に足りなければ管理費の支払いには回ってきません。
余りがなければマンション管理費の支払いには充当されず、管理組合は1円も回収できません。

よってこのような場合は、競売手続き自体が認められない場合もあります。

② 区分所有法59条にもとづく競売申立

区分所有法7条にもとづく先取特権に続いて、もう一つは区分所有法59条にもとづく競売です。

区分所有法59条では、一定の要件を満たす場合に管理組合(正確には滞納者以外の区分所有者全員または管理組合法人)が競売を申し立てる権利を認めています。
ただし、この競売が認められるには、一定の条件があります。

区分所有法59条の競売が認められるための要件

区分所有法59条にもとづく競売が認められるには「第五十七条第一項に規定する場合において、第六条第一項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは・・・」という条件があります。

平たく言うと、滞納が長期化・深刻化していて、競売以外では解決が図れないような場合といったイメージです。

なお、住宅ローンの残債額が大きく、区分所有法7条の競売は認められなかったとしても、59条による競売は訴訟による判決を経れば可能です。

この場合、住宅ローン残債があるため、競売金額から滞納管理費を回収することはできません。
しかし、滞納の管理費は新区分所有者にも請求することができます。
(ただし、管理規約にその定めが必要です)

競売によって区分所有者を強制的に入れ替えるような形になるため、次の方に前の人の滞納分をちゃんと払ってもらって、滞納を解消するということが期待できます。

消滅時効に注意!消滅時効の中断方法とは

滞納が長期化した場合に、必ずやっておいた方が良いのが「時効の中断手続き」です。

管理費などの「定期給付債権」の時効は5年間と決まっています。
つまり、滞納が5年を超えてしまうとその分は時効を迎え、債権が消滅してしまいます。

時効を中断させるには、裁判上の請求や差し押さえ、管理費滞納の承認(債務の承認)などが必要です。
時効が中断されると、その時から改めて時効のカウントが開始されるようになります。

つまり、滞納額全額が無理であっても一部だけでも支払ってもらったり「自分に債務があると認める(債務の承認)」書面を書いてもらったりすると、時効までの期間がリセットされるのです。

たとえあと1年で時効が成立していた、という場合でも、時効中断の手続きをすれば、時効のカウントはまた数え直し(5年間)となります。

気が付いたら時効を迎えていた、ということがないよう、滞納が長期化している場合は、時効の期日管理も重要なポイントとなるでしょう。

法的手続きのメリット・デメリット

法的手続きを行うことのメリットは、以下の通りです。

  • 滞納の解消が期待される
  • 管理組合の厳しい対応をマンション内に示すことで他の区分所有者への牽制になる

一方、デメリットは以下の通りです。

  • 弁護士費用、訴訟費用がかかる
  • 管理組合役員の負担が大きい

マンション管理アプリ クラセルで徴収を容易に

ちなみに、弊社のマンション管理アプリ“クラセル”は、収納代行会社(三菱UFJファクタ-)による管理費などの引き落しが可能です!

とある管理組合の方からは「以前の徴収方法の時と比べて大幅に滞納が減少した」と喜びのお言葉をちょうだいしました。

また、クラセルには各区分所有者の名簿管理機能があり、そのなかには緊急連絡先や、管理組合の書類の送付先なども登録できるようになっています。
クラセル導入時に一度、各区分所有者から名簿を提出してもらい整備。その後は総会案内と一緒に変更届を送るという運用をされている管理組合もあります。

また、最近では「VAMOS ~安心を届ける不動産保証サービス~」という管理費などの滞納保証を行うサービスも登場しています。

月々のランニングコストはかかりますが、このサービスを利用すると滞納の悩みはかなり軽減されるでしょう。

一度ご検討されてみてはいかがでしょうか?

関連記事:新しいマンション管理の選択肢!第三者管理方式の導入メリットとデメリット

関連記事:管理組合での個人情報取り扱いに関する注意点

まとめ

今回は管理費の滞納者に関するお話でした。

既に滞納が発生してしまっている場合、その状況は滞納者ごとに異なりますので一概には言えません。

しかし今後「新たな長期滞納者を生み出さない」というテーマはどのマンションも同じ。

滞納者を今後なるべく出さないようにするために、なるべく早い段階で下記にある3つのポイントを実施しておくとよいでしょう。

  • 管理費などの徴収方法を収納代行会社による収納に変更する。
  • 区分所有者の名簿を定期的に整備する
  • 万が一、滞納が発生した場合の対応方針を管理組合内に周知し、第二第三の滞納者を生み出さないようけん制する

この3点を心がけていれば、本当にお金がなくて払えない人以外の滞納は確実に減少するでしょう。

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