区分所有法が2024年に改正される?改正のポイントとその背景とは

すでに報道などでお聞きになっている方も多いかもしれませんが、現在、区分所有法の改正が検討中です。
改正案の提出はそう遠くない時期で、今のところ2024年と予定されています。

今回検討されている改正案は、特に老朽化マンションにお住まいの方にとっては知っておくべき内容となっています。

そこで本コラムでは改正に至る背景や、改正後の内容など、詳しく解説します。
日本全国の全てのマンションに関係するお話ですので、ぜひ最後までお読みください。

区分所有法とは

区分所有法は、分譲マンションなど一棟の建物を区分して所有する場合の所有権を守り円滑に管理することを目的とした法律です
正式名称は「建物の区分所有等に関する法律」で、「マンション法」と呼ばれることもあります。

関連記事:区分所有法における区分所有者とは?区分所有法と合わせてわかりやすく解説

区分所有法改正の背景について

これまでも区分所有法は何度か改正が行われてきています。

時代の流れに合わせたり、当初想定していなかった問題が生じたりした場合に、改正をしていくのが一般的です。

例えば、インターネットの普及により総会における議決権行使を電磁的方法できるようにしたり、規約も電磁的記録が認められるようになったり、という感じです。

今回の改正の背景は以下の通りです。

【課題】

  • 今後、老朽化したマンションが急増していく見込み
  • 高経年区分所有建物の増加と区分所有者の高齢化を背景に、相続等を契機として、区分所有建物の所有者不明化や区分所有者の非居住化が進行

【課題から起こり得る事象】

  • 不明区分所有者などが決議において反対者と扱われ、決議に必要な賛成を得るのが困難
  • 特に、建て替え等の区分所有建物の再生の意思決定は、要件が厳格で更に困難

    ⇒ 区分所有建物の管理不全化を招くとともに、老朽化した区分所有建物の再生が困難になっていくとの指摘
  • 被災して大きなダメージを受けた区分所有建物についても、建て替え等の要件が厳しい上に、被災区分所有法に基づく災害指定政令の施行後1年以内に決議が必要

    ⇒ 被災区分所有建物の再生に必要な賛成を得るための時間が足りず、円滑な復興が難しい

国土交通省では、区分所有建物の管理・再生の円滑化、被災建物の再生の円滑化に向けた区分所有法制の見直しは、喫緊の課題であるとしています。

今後急増していく築古マンションに対して、現状の法のままでは、管理不全マンションをたくさん生み出してしまう恐れがあるため、先に手を打っておこうということですね。

また、地震大国である日本においては、今後も大震災が発生することが考えられます。
そのため、被災したマンションが再生しやすいような法改正が必要と考えたわけです。

関連記事:マンションの建て替えって実際してるの?住民の負担費用や、マンション寿命などから詳しく解説

築古マンションの現状

築40年を超えるマンションは2021年の時点で約115万戸あり、10年後には2.2倍、20年後には3.7倍になることが分かっています。

築古マンションが多くなるということは、それだけ建て替えを視野に入れ始めるマンションが増えてくるわけです。
しかし、建て替えをしたくとも成立要件が5分の4となっており、なかなか決議ができないという現状があります。

建て替えが必要なマンションは、当然ながら築年数がかなり経過しているため、新築当時から所有している方たちはかなり高齢化しています。

高齢者の方からすると、建て替えはとても大きな負担です。
金銭的な負担はもちろんのこと、数年もの間、仮住まいで生活する必要もあります。
当然、引っ越しも必要です。

残りの人生の期間はさほど長くはないと思うと、新築のマンションよりも、住み慣れたところで暮らしたいと考える方も少なくはないでしょう。

そのため、建て替えに反対する方も多いようです。

建て替えが必要な状況なのに建て替えができないマンションが増えていくのは、社会的にみても良くない状況と思われ、今回の法改正の検討に至ったというわけです。

区分所有法が改正される具体的な時期は決まっている?

法改正の具体的な時期はまだ決まっていません。

2024年度の通常国会での成立を目指す、ということだけが事実として公表されています。
しかし、仮にそこで成立したとしても、施行までには半年~1年かかるのが一般的です。

そのため、具体的に改正後の内容で手続きができるようになるのは2025年度以降ということになりそうです。

法改正の内容

今回検討されている改正案は以下の通りです。

【区分所有建物の管理の円滑化を図る方策】

1. 集会の決議一般を円滑化するための仕組み

① 所在等不明区分所有者を決議の母数から除外する仕組みづくり
所在等不明の区分所有者は反対者と同様に扱われ、円滑な決議を阻害する要因になっているため、公的機関の関与の下で、所在等不明の区分所有者を決議の母数から除外する仕組みづくりを検討

②出席者の多数決による決議を可能とする仕組み
集会に参加せず、賛否も明らかにしない区分所有者は、反対者と同様に扱われ、円滑な決議を阻害している要因になっているため、出席者の多数決による決議を可能とする

2. 区分所有建物の管理に特化した財産管理制度

①所有者不明の専有部分の管理制度
所在等不明区分所有者の専有部分は適切に管理されず、建物の管理に支障をきたす場合があるため、所在等不明区分所有者の専有部分管理に特化した、新たな財産管理制度を検討

②管理不全の区分所有建物の管理制度
専有部分や共用部分が管理されないことによって危険な状態になることもあるため、管理不全状態にある専有部分や共用部分の管理に特化した新たな財産管理制度を検討

3. 共用部分の変更決議を円滑化するための仕組み

① 共用部分の変更決議の要件の緩和
共用部分の変更決議の多数決要件(4分の3)を満たすことは容易でなく、必要な工事等が迅速に行えない場合がある。
 
多数決割合を単純に引き下げる案のほか、外壁崩落のおそれなど一定の客観的要件を満たした場合には多数決割合を引き下げる案、多数決割合を規約で緩和することを認める案等について検討

※少数反対者の利益保護や客観的要件の在り方などが課題

4. その他の管理の円滑化に資する仕組み

① 共用部分に係る損害賠償請求権等の行使の円滑化
共用部分について損害賠償請求権等が発生した後、一部の区分所有権が転売されると、管理者は区分所有者の全員につき、請求権を代理して行使できなくなるとの指摘があった。

そのため、管理者が請求権を代理して行使できる仕組みを検討

②区分所有者の責務
集会に参加しない区分所有者が増加する傾向にあり、結果として区分所有建物の適切な管理を阻害するおそれが生じている。
区分所有建物の管理に関して所有者が負うべき責務について検討

【区分所有建物の再生の円滑化を図る方策】

1. 建て替えを円滑化するための仕組み

①建て替え決議の多数決要件の緩和
建て替え決議の多数決要件(5分の4)を満たすのは容易でなく、必要な建て替えが迅速に行えない場合も多い。
多数決割合を単純に引き下げる案のほか、耐震性不足など一定の客観的要件を満たした場合には多数決割合を引き下げる案、多数決割合を全員合意で緩和することを認める案等について検討
※少数反対者の利益保護や客観的要件の在り方などが課題

②建て替え決議がされた場合の賃借権等の消滅
建て替え決議がされても専有部分の賃借権等は消滅しないため、建て替え工事の円滑な実施を阻害する場合も。
建て替え決議がされた場合に、一定の手続を経て賃借権を消滅させる仕組みを検討

2. 区分所有関係の解消・再生のための新たな仕組み

①多数決による建物・敷地一括売却や建物の取壊し等
建物・敷地一括売却や建物の取壊し等を行うには、区分所有者全員の同意が必要であり、事実上困難なため、多数決による一括売却や取壊し等を可能とする仕組みを検討

※多数決要件の在り方については、建て替え決議に関する議論を基礎としつつ、対象行為ごとに検討する必要がある

②多数決による一棟リノベーション工事
既存躯体を維持しながら専有部分を含む建物全体を更新して、実質的な建て替えを実現する「一棟リノベーション工事」が技術的に可能になっているが、区分所有者全員の同意が必要で、事実上困難建て替えと同等の多数決による一棟リノベーション工事を可能とする仕組みを検討

【被災区分所有建物の再生の円滑化を図る方策】

①建て替え・建物敷地売却決議等の多数決要件の緩和
被災した区分所有建物の建て替え決議等の多数決要件も一律に5分の4とされ、迅速な復興を阻害しているため、多数決割合の緩和を検討
※被災区分所有建物の変更決議や復旧決議の多数決要件(4分の3)の緩和についても併せて検討

② 大規模一部滅失時の決議可能期間の延長
被災した区分所有建物の建物敷地売却決議等の決議可能期間が1年以内とされているのは短すぎ、準備が困難。

特例措置を受けられる期間を限ることにより被災地の迅速復興を促進するという趣旨を踏まえつつ、決議可能期間の延長を検討。

また、上記の他、団地内建物の建て替え要件の緩和(例:一括建て替え決議の全体要件〔5分の4〕・各棟要件〔3分の2〕の緩和)や団地関係の解消・再生のための新たな仕組み等についても併せて検討

改正されるとどうなるの?

今回の区分所有法改正がなされると、建て替え決議が得られやすくなります。

単純に5分の4の決議要件が4分の3程度まで引き下げられたり、所在不明者の分は反対票ではなく、除外して扱えるようになったりするのです。
総会に出席した人だけで決議ができるようになれば、今よりもかなり条件が緩和されることになります

とはいえ、建て替えには多くのお金がかかります。
さらに、条件が緩和されたとしてどんどんあちこちで建て替え決議が進むかどうかはまだ分からないという懸念が残ります

まとめ

今回は来年度に予定している区分所有法の法改正についてのコラムでした。

建て替えを検討しているマンションの方は特に参考にしてみてください。

また「まだまだ建て替えは先だよ」というマンションの方。

こちらの方は今のうちに少しでも管理コストを削減し、いずれ必ず迎える老朽化に備え少しでもお金を残しておくこととおすすめします。

修繕積立金にお金がたくさん残っていれば建て替えにかかる費用にも充当できますので、合意形成がスムーズにいくかもしれません。

ぜひ管理組合内で話題にしてみてはいかがでしょうか。

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