大規模修繕を検討する段階から工事終わりまでの進め方を解説!

管理組合にとって大規模修繕工事はとても重要なイベントです。

一般的なマンションの場合、12~15年に一度くらいのペースで、大規模修繕工事が実施されます。

大規模修繕はマンションの劣化を防ぎ、資産価値を維持するためのものですが、どのような流れで検討から実施まで行われるのでしょうか。

今回のコラムでは、大規模修繕工事の進め方と注意点について解説します。

大規模修繕のタイミングで理事会役員や、大規模修繕委員会のメンバーになった方はぜひ参考にしてください。

関連記事:マンションの大規模修繕で注意すべきことは?費用・周期・時期について

大規模修繕工事の流れ

大規模修繕工事の一般的な流れは以下の通りです。

①検討を行うための体制づくり
②パートナーの選定
③工事の発注方式の決定
④調査・診断
⑤基本計画の検討
⑥資金計画の検討
⑦施工会社の選定
⑧総会決議
⑨契約・着工
⑩工事完了

大きく分けると、事前準備フェーズ(①~②)、検討フェーズ(③~⑧)、実施フェーズ(⑨~⑩)に分類できます。

それぞれのフェーズにおけるポイントについては、このあと触れていきます。

大規模修繕を始める前の準備事項

①検討を行うための体制づくり

一般的なマンションの場合、修繕委員会などの専門委員会を立ち上げ、その委員会メンバーを中心に検討を進めていく手法が多く採用されています。

理事会役員を輪番制で行っているマンションの場合、役員の任期は通常1~2年に設定しているケースが大半です。

一方、大規模修繕工事は数年にわたりじっくりと取り組んでいく必要があり、役員の任期内で完結できないこともあります。

そこで、管理組合の諮問機関である専門委員会を立ち上げる方法が有効となります。

専門委員会は理事会とは異なり、何らかの意思決定ができる権限はなく、あくまでも理事会に答申する立場という扱いです。

修繕委員会のメンバーには、過去の大規模修繕工事の経験者や建築関係に詳しい方に入ってもらうと良いでしょう。

また、理事会との連携をスムーズにするために、数名の理事会メンバーに兼任してもらうのも効果的です。

委員会の主な役割は、大規模修繕工事の検討だけでなく、居住者への説明や外部との交渉などが含まれるため、十分に対応できる人数を確保しておく必要があります。

②パートナーの選定

大規模修繕工事の主体は当然ながら管理組合ですが、工事を進めるには専門的な知識が必要です。

そのため、以下のような専門家の協力を得て、意見を聞きながら遂行していくことが重要です。

パートナーとなり得る専門家の例

  • 管理会社
  • 設計事務所
  • 施工会社
  • マンション管理士
  • 業界団体や行政

パートナーの選定は、まず候補者を選ぶことから始まります。

これまでの管理組合活動の中で関係のあった事業者から紹介してもらったり、業界新聞で公募を行ったり、行政から情報提供を受けることなどが考えられます。

一般の方にはあまり知られていないかもしれませんが、行政やマンション管理関係の業界団体、NPO法人では、各種相談や専門家の派遣、診断業務などを行っているところがあります。

信頼できるパートナーを探すために、こういった団体に相談してみるのも良いでしょう。

工事の内容やマンションの規模によって異なりますが、一般的な大規模修繕工事の場合、コンサルタントと呼ばれるパートナーを起用するケースが多く見受けられます

コンサルタントは、管理組合の立場に立って大規模修繕工事全般に関するアドバイスを提供します。

具体的には施工業者の選定や工事項目の決定、見積もりの精査などを支援してくれます。

また、工事の着工後も工事監理業務を引き受け、工事が完了するまで関与し続けてくれるケースも多く見受けられます。

コンサルタントについては、別のコラムでも詳しく説明していますので、ぜひ併せてご覧ください。

関連記事:必要?大規模修繕工事コンサルタントの役割と選び方とは

大規模修繕工事の検討から実施まで

③工事の発注方式の決定

発注方式を決定しておかないと、発注先候補の絞り込みが大変になってしまうため、検討の初期段階で決定するのが一般的です。

大規模修繕工事の発注方式としては主に以下3つのパターンがあります。

責任施工方式設計監理方式CM方式
(コンストラクション・マネジメント方式)
特徴施工会社に全て一括でお願いする方式施工と設計・工事監理を分離する方式設計監理方式からさらに工事を分離発注する方式
発注先設計施工会社(一社に発注)設計事務所など設計事務所など
施工施工会社(一社に発注)施工会社(工事項目ごとに分離発注)
工事監理設計事務所などコンストラクション・マネジャー
メリット・初期の段階から施工性に配慮した検討を行うことができる
・工事監理費用を軽減できる
・必要とされる工事の見極めができる
・施工会社の仕事を第三者がチェックできる
・施工会社の仕事を第三者がチェックできる
・工事費用のコストダウンが期待できる
デメリット・施工会社が監理を行うため、透明性に欠ける場合がある・設計や監理のための費用が発生する・コンストラクション・マネジャーの費用が発生する
・コンストラクション・マネジャーの能力に左右される

ちなみに、国土交通省が実施した「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」の結果によると、全体の約80%が設計監理方式で実施、約12%が責任施工方式で実施と回答しています。

CM方式は元々アメリカで誕生した方式ですが、まだ浸透していないのか、全体の0.9%しかありませんでした。

このことから、現時点で最も一般的なのは設計監理方式と言えます。

しかし、設計監理方式を選択する際には注意点が一つあります。

それは不適切なコンサルタントの存在です。

2016年頃に、管理組合の利益のために活動するはずのコンサルタントが施工会社から不当なバックマージンを収受しているという問題が浮上しました。

この問題は多くのメディアや業界紙に取り上げられ、国土交通省が注意喚起を出すまでに至りました。

あれから数年が経過しましたが、いまだに不適切なコンサルタントの存在が懸念されます。

そのため、コンサルタントを選定する際には、悪い噂や評判がないかなど、十分な調査を行った上で仕事を依頼することをおすすめします

④調査・診断

検討のための体制が整ってきたら、次に建物の状態を調査します。

ステップ1

新築時からの竣工図書やこれまでの修繕工事や点検の記録を確認します。

ステップ2

建物の状況を目視で確認したり、不具合がある箇所や修繕・バリューアップの要望を住民にアンケート調査したりします。

ステップ3

調査・診断を行う専門家を選定し、依頼します。

ステップ4

診断結果を広報誌などで組合員に知らせ、建物の状態を知ってもらいます。

⑤基本計画の検討

診断が終了したら、その結果を基に基本計画を策定していきます。

修繕工事の実施時期や内容等など含めた基本計画をパートナーに作成してもらいましょう。

診断結果に基づき、今回の大規模修繕工事では実施せず次回に先送りすべき箇所があるか、また、アンケートの結果でバリューアップ工事を望む声が多いことから、改修工事を実施できない部分も検討していきます。

次の段階で行う資金計画と並行して検討していくことも必要になります。

また、この段階で管理規約や関係法令も確認します。

大規模修繕工事の案が決定しても、管理規約や使用細則の違反や、既存不適格がある場合はその点も踏まえて検討する必要があります

具体的には以下の点が挙げられます。

  • 専有部分も含めて一体的に工事を行う場合、その費用を修繕積立金から捻出しても問題ないか
  • 専有部分への立ち入りが必要な工事の場合、その部屋の占有者が拒否したらどうなるか

⑥資金計画の検討

大規模修繕工事は費用が高額になるため、資金計画の策定はとても重要です。

以下の手順で資金計画を検討していきます。

ステップ1

修繕委員会や理事会で、工事費や工事内容が適正かどうか検討します。

この段階で専門家のアドバイスは必要不可欠です。

大規模修繕工事の内容は、その時点でのマンションの状態に適合したものにする必要があります。

例えば、駐車場の利用が少ない場合は機械式駐車場の修繕が必要ないかもしれませんし、高齢者が増えている場合はバリアフリー化の工事が必要になるかもしれません。

このような点を専門家のアドバイスを参考にしながら検討していきましょう。

ステップ2

地方公共団の助成制度が活用できないか確認します。

例えばバリアフリー化の工事や、壁面緑化工事などは助成金制度が用意されている地域がありますので、必ず確認しましょう。

ステップ3

工事内容の精査が完了した後は、現在の修繕積立金だけで負担できるかどうかを確認します。

単純に現在の貯金で払えるかどうかだけでなく、次の大規模修繕工事に向けた費用も考慮する必要があります

もし現在の積立金では支払いができない場合で、かつ、これ以上の工事費用の圧縮が難しい場合は、管理組合としての借り入れや一時金の徴収を検討します。

借り入れ先は住宅金融支援機構や民間の金融機関、リース会社などがありますが、いずれも手続きに時間を要するため、資金が不足する場合は早めに借り入れ先を検討する必要があります。

一方、各区分所有者から一定の金額を徴収する方法については、借り入れをしなくて済むというメリットはあるものの、多くの所有者がまとまった金額を支払うことに抵抗を感じるため、総会での承認が難しい可能性も十分に考えられます。

ステップ4

必要に応じて長期修繕計画を見直します。

特に、今回の大規模修繕工事が現在の計画上の予算額と大きく乖離している場合は、今後の長期的な資金計画に影響を与える可能性もあるため、必要に応じて長期修繕計画の見直しを検討しましょう。

⑦施工会社の選定

続いて以下の手順で施工会社の選定を進めていきます。

ステップ1

施工会社の候補をリストアップします。リストアップする方法としては以下が考えられます。

  • 管理組合員からの推薦
  • 過去の大規模修繕実施業者
  • 公募
  • コンサルタントや管理会社からの紹介
  • そのマンションを施工した会社の系列会社
  • 管理会社

ステップ2

見積もりを依頼する会社を絞り込み、見積もり要項を作成します。

リストアップした施工会社から、会社案内や財務状況などの情報を取り寄せ、書類選考を行います。

その後、見積もり要項(工事の概要や見積もり条件などが記載された文書)を作成し、それをもとに見積もりを依頼します。

見積もりを依頼する際には、施工会社にマンションに訪問してもらい、現場の状況や竣工図書、過去の点検報告書などを確認してもらう必要があります

ステップ3

面接を行い、施工会社を内定します。

施工会社から提出された資料を基に公平に審査します。見積金額だけでなく、会社概要、提案力、技術力、工事後の対応力などの観点から審査します。

なお、選定の経緯は透明性が強く求められます。選定の経緯や理由を明確にし、総会で説明できるように進めていく必要があります。

⑧総会決議

施工会社の選定が完了したら、次は総会手続きに進みます。

ステップ1

大規模修繕工事の施工会社や工事内容、発注金額などについて総会で決議します。

また、借り入れを実施する場合はその内容も総会で議題に上げます。

総会での議論に際しては、これまでに専門委員会が検討してきた内容を丁寧に説明するようにしましょう。

検討に関わってきた人たちには既知の情報でも、総会で初めて話を聞く人にとっては理解が追い付かない場合もあります。

ステップ2

総会で承認が得られたら、住民向けに工事説明会を開催します。

工事期間中は足場にシートが張られて日照が悪くなったり、騒音が発生したり、工事業者がたくさん出入りしたりと、住民の生活に影響を及ぼすことが多く発生します。

そのため工事前に説明会を開催しておいた方が良いでしょう。

また、工事の前にバルコニーや専用庭、玄関ポーチなどの専用使用部分の片づけが必要となることもあるので、そのような場合は、説明会で住民にお願いすることも大切です。

⑨契約・着工

その後、工事請負契約を締結します。

工事請負契約については、管理組合にとって不利な条項が入っていないかを確認する必要があります。

民間(七会)連合協定工事請負契約約款委員会という団体が標準的な契約書を提供しており、それに準じたものであれば特に問題はないでしょう。

工事期間中は定期的にコンサルタントや施工会社とミーティングを行い、状況を確認しましょう。

  • 工事に遅れは生じていないか
  • 居住者からのクレームはないか
  • 工事中の安全管理体制、防犯体制
  • その他、計画とのずれが生じていないか

などを確認します。

⑩工事完了

完了後は、竣工検査を行い、竣工図書を受け取ります。

検査の際に不具合が発見された場合は、施工会社にその旨を通知し、直ちに不具合箇所を是正してもらいます。

また、竣工図書や工事保証書を受け取り、保証内容を工事請負契約書と照らし合わせて整合性を確認するようにします。

関連記事:マンションの標準管理規約とは?使用細則との違いや最近の改正内容も解説!

関連記事:長期修繕計画の作成にかかる費用を紹介!エクセルでの管理方法も解説

次の大規模修繕工事に向けて準備しておくこと

大規模修繕工事は通常、12年~15年ごとに必要になります。

しかし、大規模修繕工事が終わったからと言って、それで終わりではありません。

次の大規模修繕工事に向け、書類の保管や定期的な点検など維持管理の取り組みを継続する必要があります。

ステップ1

納品された竣工図書をきちんと保管しましょう。

管理事務室に保管することが一般的ですが、盗難や紛失を防ぐために施錠することができるところに保管するようにしましょう。

ステップ2

長期修繕計画を見直します。

今回の工事内容を長期修繕計画に反映させ、次の大規模修繕工事に向けて資金計画を確認しましょう。

まとめ

大規模修繕工事は管理組合にとって一大イベントです。

実際、管理組合運営において最も重要なイベントの一つと言っても過言ではありません。

しかし、住民の方々の中には建築関係に詳しい方ばかりではありません。

しっかりと知識を身に付けて、後悔することのないよう取り組めると良いですね。

建築に関する知識が不足している場合、理解しきれないこともあるでしょう。

しかし重要なのは、疑問や不明点があれば、ただ放置せず、知識のある人に相談することです。

そういった意味でも信頼できるパートナー選びは重要です。

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