マンション建替円滑化法とは?しっかり理解して今後の建て替えに生かそう
どんなマンションも築後の年数経過と共に老朽化していきます。
築40〜50年ともなればあちこちに修繕が必要となり、当然修繕費用も高くなりがちです。
そうなると視野に入ってくるのがマンションの建て替えです。
マンションを建て替える際、密接に関係してくるのがマンション建替円滑化法です。
今回のコラムではマンション建替円滑化法について解説していきます。
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INDEX
マンション建替円滑化法とは
マンション建替円滑化法は、正式名称を「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」といい、建て替えを含めたマンション再生をスムーズに行うための手続きやルールを定めた法律です。
マンション建替円滑化法は2014年、正式名称を「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」から、「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」と改め、要除却認定マンションの条件が緩和されるなど、内容の改正が行われました。
また、2020年6月には、「マンションの建替え等の円滑化に関する法律の一部を改正する法律案」が閣議決定され、要除却認定マンションの要件はさらに緩和されています。
マンション建替円滑化法改正の背景にあるのは大震災
マンション建替円滑化法改正の背景には、2011年の東日本大震災があります。
今後、発生が想定されている南海トラフ巨大地震や、首都直下地震に備えた対策として、耐震性が不足している老朽化したマンションの建て替えなどを早急に行うことを目的に、マンション建替円滑化法は改正されたのです。
マンション建替円滑化法制定の目的はマンションの建て替えを促すこと
マンション建替円滑化法は、老朽化したマンションを再生することと、建て替えを円滑に進めることを目的として制定されました。
建築後、長い年月が経過したマンションは、外壁タイルの落下や地震による倒壊といったリスクを抱えています。
そのため、危険性の高いマンションを要除却認定マンションに認定し、建て替えが認可されるための要件を緩和したり、建て替え後にマンションの階数を増やすなど、容積率の緩和を認めたりすることで、建て替えを促進することがマンション建替円滑化法の目的です。
老朽化マンションは今後も増加していく見込み
国土交通省の統計によると2022年末の時点で築40年以上のマンションは約125.7万戸存在し、10年後には約2.1倍、20年後には約3.5倍に増加する見込みとなっています。
一方、建て替えの実績は2023年3月時点で、累計282件、約23,000戸となっており、老朽化したマンションの建て替えはあまり進んでいないと言えます。
このことから、今後建て替えを選択するマンションが急速に増加しない限り、老朽化マンションの数は増え続けていくと予想されます。
マンション建替円滑化法の概要
マンション建替円滑化法は、マンションの建て替えがスムーズに行われるための手続きや決まりを定めた法律です。
マンション建替円滑化法の主な内容は下記の通りです。
- マンション建替組合に関する事項
- 権利変換に関する事項
- 除却する必要のあるマンションに関する事項
- マンション敷地売却事業に関する事項
1.マンション建替組合に関する事項
マンション建替円滑化法によって、マンションの建て替えを行う際は、法人格を有するマンション建替組合を設立することが定められています。
マンション建替組合の組合員になるのは、建て替え前のマンションの管理組合員のうち、建て替えに賛成した人です。また、マンションを建設することになるデベロッパーも、マンション建替組合の組合員になれます。
2.権利変換に関する事項
マンションを建て替えるときは、そのマンションを取り壊した後、新しいマンションを建設するのが一般的ですが、建て替え前のマンションを取り壊した後も、それぞれの組合員の区分所有権などを消滅させず、建て替え後のマンションに移行する「権利変換」を行う必要があります。
マンション建替円滑化法によって、権利変換がスムーズに行われるためのルールが定められています。
3.除却する必要のあるマンションに関する事項
老朽化が進行したマンションは、震災時にリスクが高まる可能性があります。マンション建替円滑化法によって、耐震性のレベルなど、除却の対象となるマンションの条件が定められています。
4.マンション敷地売却事業に関する事項
マンション建替円滑化法によって、マンションの建て替えではなく、敷地をデベロッパーなどに売却する選択をした場合は「マンション敷地売却組合」を設立して売却することが定められています。
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マンション建替円滑化法による建て替えの流れ
マンション建替円滑化法による建て替えの流れは以下の通りです。
- 総会にて建て替え決議を行い、マンション建て替えの賛成を得る
- マンション建て替え賛成者の4分の3以上の合意と、都道府県知事の認可を得てマンション建替組合を設立する(組合施行の場合)
- マンション建て替えに賛成しない者の区分所有権をマンション建替組合で買い取る
- マンション建替組合が一括登記を行う
- 建て替え工事を実施する
- 建て替え後のマンションに入居する
- マンション建替組合が建て替え後のマンションの登記をする
- マンション建替組合を解散する
マンション建替円滑化法改正による変更点
2020年6月の改正では、マンション建替円滑化法は、要除却認定の条件と敷地の売却についての内容が改正され、さらに「団地における敷地分割制度」が創設されました。
改訂内容と創設された制度は以下の通りです。
1.マンションの要除却認定の条件と敷地の売却
マンション建替円滑化法の改正により、要除却認定の対象となるマンションの条件が拡充されることとなりました。
下記の条件のいずれかに該当するマンションが要除却認定の対象となります。
<要除却認定の対象となるマンションの条件>
- 耐震性に問題があるマンション
- 外壁の剥離など、周囲に危険を及ぼす可能性があるマンション
- 防災性に問題があるマンション
- 配管設備に損傷があり、危害を生ずるおそれがあるマンション
- バリアフリー性能が確保されていないマンション
上記に該当するマンションは、特例として建て替え後に容積率の緩和を受けることができます。
また、要除却認定を受けると、区分所有者、議決権、敷地利用権の持分価格の5分の4以上の同意を得ることで、敷地を売却することができます。
2.団地における敷地分割制度
団地型のマンションの中には、敷地内の一部のマンションのみが要除却認定を受けるというケースもあります。
そのような場合でも、スムーズに建て替えや売却が行えるようにするために創設されたのが、団地における敷地分割制度です。
団地における敷地分割制度では、要除却認定を受けた建物を含む団地について、敷地共有者の5分の4以上の同意を得ることができれば、該当のマンションの敷地を分割して建て替えや売却ができます。
これによって、敷地内の一部のマンションの建て替えを行うことが可能となりました。
今後の法改正
マンション建替円滑化法ではなく、区分所有法の改正ですが、建て替えと大きく関係する内容のため、ご紹介します。
【2024年改正に向けて検討している内容(区分所有法)】
1.建て替えを円滑化するための仕組み
①建て替え決議の多数決要件の緩和
建て替え決議の多数決要件(5分の4)を満たすのは容易でなく、必要な建て替えが迅速に行えない場合も多い。
多数決割合を単純に引き下げる案のほか、耐震性不足など一定の客観的要件を満たした場合には多数決割合を引き下げる案、多数決割合を全員合意で緩和することを認める案などについて検討中。
②建て替え決議がされた場合の賃借権などの消滅
建て替え決議がされても専有部分の賃借権などは消滅しないため、建て替え工事の円滑な実施を阻害する場合も。
建て替え決議がされた場合に、一定の手続を経て賃借権を消滅させる仕組みを検討中。
2.区分所有関係の解消・再生のための新たな仕組み
①多数決による建物・敷地一括売却や建物の取壊しなど
建物・敷地一括売却や建物の取壊しなどを行うには、区分所有者全員の同意が必要であり、事実上困難なため、多数決による一括売却や取壊しなどを可能とする仕組みを検討中。
②多数決による一棟リノベーション工事
既存躯体を維持しながら専有部分を含む建物全体を更新して、実質的な建て替えを実現する「一棟リノベーション工事」が技術的に可能になっているが、区分所有者全員の同意が必要で、事実上困難なため、建て替えと同等の多数決による一棟リノベーション工事を可能とする仕組みを検討中。
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マンション建替円滑化法のメリット
マンション建替円滑化法を活用するメリットは、一定の条件に該当した場合に容積率の緩和を受けられる点が挙げられます。
容積率の緩和によって部屋の数を増やすことができ、その住戸を新築マンションとして販売すれば建て替えの費用に充当することができます。
これは建て替え前のマンションの方々にとって非常に大きなメリットです。
建て替えが進まない理由は、言うまでもなく、建て替えに賛成する人の数が少ないからです。
建て替えには区分所有者の5分の4以上の方の賛成が必要です。つまり20%以上の方が反対したら建て替えはできません。
では、なぜ建て替えに反対するのでしょうか?
建て替えの対象となるマンションは当然ながら築40年、50年といった古いマンションですから、住んでいる方も高齢化しています。
高齢の方にとって、引っ越しを伴う建て替えが大きな負担であることも反対理由の一つですが、最も多い反対理由は、建て替え費用の問題と言われています。
建て替えは、新しくマンションを建設することと同じ訳ですから、建て替えに参加する人たちは新築マンションを購入することと変わらないくらいの費用がかかります。
建て替えをしたくともお金が払えない、という方も少なくないでしょう。
そのような場合に、容積率緩和の特例を受けられれば建て替えに賛成される方が増えることも期待できます。
マンション建替円滑化法を利用した建て替えの特徴
マンション建替円滑化法を利用した建て替えには個人施行と組合施行があります。
個人施行は、施行者に関する区分所有者全員の合意が必要であることなどの理由から一般的ではありませんので、ここでは組合施行について解説します。
組合施行の特徴は、大きく3つあります。
1つ目は、行政の認可を受けて設立される「マンション建替組合」が事業の主体となることです。
マンション建替組合は、マンション建替円滑化法が定めた各種の手続きや、事業に関係する契約の当事者となります。
2つ目は、組合の設立や、建て替えに関する重要な手続きについて、行政の認可を受けることです。
それによって手続きの透明性や公平性が担保されます。
3つ目は、権利変換計画によって区分所有者などの権利の取り扱いが決定することです。
建て替え参加者の5分の4以上の賛成を得た上で、行政の認可を受けることで権利変換計画が確定します。
個人施行と組合施行
個人施行と組合施行には以下のような違いがあります。
法人格 | 人数 | 権利変換 | |
---|---|---|---|
個人施行 | なし | 1人または数人共同 | 全員同意が必要 |
組合施行 | あり | 5人以上共同 | 組合の議決権及び持分割合の5分の4以上の決議 |
個人施行のメリットとしては、組合施行と比べて認可などの手続きが簡素化されるという点があります。
一方、デメリットとしては、全員同意を前提としているため、反対者が1人でも出た際に事業が安定しなくなってしまうという点があります。
そのため一般的なマンションの場合は、組合施行による建て替えが採用されるケースが大半のようです。
マンションを建て替えるとき、住民はどうなる?
マンションを建て替える間は、当然ながら住民は仮住まいに引っ越すことになります。
建て替えの工事日程が決まってから竣工までは、マンションの規模によりますが1年〜2年くらいと言われています。
その間、慣れ親しんだ住居から賃貸住宅などに引っ越すことになるため、負担に感じる方も少なくありません。
また、高齢の方の場合、賃貸住宅を借りづらいという面もあり、家探しに苦労するケースもあるようです。
まとめ
今回はマンションの建て替えと関係性が深いマンション建替円滑化法がテーマでした。
どんなマンションでもいずれは建て替えを検討する時期がやってきます。
建て替えは合意形成が非常に難しいと言われています。
マンションが老朽化した場合の選択肢として、どんな方法があるのか、建て替えした場合はどれくらい費用がかかるのかなど、情報収集しておくことは決して無駄にはならないでしょう。
少し早いと感じるかもしれませんが、3回目の大規模修繕工事を迎えるタイミングくらいから建て替えを意識しておくとことをおすすめします。